ブロックチェーンの活用事例~次世代のビジネスモデルを支えるブロックチェーン技術
ブロックチェーンはIoT、AIと並ぶ最先端技術の一つとして注目されています。そのためブロックチェーンの事例といえば、仮想通貨を思い出す方が多いのではないでしょうか。この10年でブロックチェーンは進化を繰り返し、今日ではサプライチェーンの生産履歴追跡、将来のドローンや空中タクシーの自動管制、または入国審査の自動化など多種多様な研究事例があります。
本稿は、原点から最先端までブロックチェーンの応用事例を紹介しつつ、どのようにブロックチェーンが応用されてきているのかを解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。
I.ブロックチェーンの原点
ブロックチェーンの事例といえば、仮想通貨を思い出す読者が多いのではないでしょうか。
確かに、仮想通貨はブロックチェーンを代表する事例の1つであり、数ある事例の中でも唯一、一般ユーザーに大規模導入されていると言っても過言ではありません。
今、市場に出回っているブロックチェーンのプラットフォームのほとんどは10年前にNakamoto Satoshiが発明した仮想通貨ビットコインが原点とされています。
この原点をブロックチェーン1.0とすると、ブロックチェーンはこの10年で2.0、そして3.0と、進化し続けています。応用事例としても仮想通貨のみならず、これまでのサプライチェーンでは技術的に難しかった、Track&Traceと呼ばれるバリューチェーンを横断的に追跡する履歴が可能になったり、仮想トークンを使ってアプリ上で決済できるような新市場開拓など、世界の企業がこぞって研究開発に力を入れています。このように、ブロックチェーンは将来のビジネスモデルになくてはならない技術として期待されています。
そこで、ここではブロックチェーンの応用事例を原点から紐解き、どのようにブロックチェーンが応用されてきたかについてご紹介します。
II.ブロックチェーンの仕組み
ブロックチェーンは分散型台帳技術です。これは、「集中型」と「分散型」を比較するとよくわかります(図表1参照)。
図表1 集中型台帳技術と分散型台帳技術の比較
「集中型」では、さまざまな端末から発生する新規のデータは中央にあるデータベースがチェックし、管理します。たとえば、システムに新規ユーザーを登録する場合、端末から送られたユーザーのデータを中央のデータベースが、データに不正がないか、データの重複がないかを調べます。すべてクリアであれば、データは承認・記録され、接続されているすべての端末から新規ユーザーの情報にアクセスできるようになります。
この集中型は成熟した技術ですが、短所もあります。1つには、データが中央に集中しているために、外部からウィルス攻撃のターゲットになりやすいことです。また、集中データベースを管理するコストはもちろんのこと、管理者自身が不正をしてしまうリスクもあります。ここでのポイントは、集権型はデータの改ざんが何らかの形でできてしまうことです。
これらの短所を克服するために、分散型が発明されました。中央管理を廃止して分散型にすることで、改ざんが不可能なシステムを作ったというわけです。
分散型では、新規データはまずブロックに記入されます。そのブロックは、すべてのコンピューターに共有され、何千、何万という独立したコンピューターが新規データに不正がないかどうかを調べます。大多数のコンピューターがそのブロックに不正のないことに合意するとそのブロックは承認され、前のブロックに鎖のように追加されます。このように承認記録の鎖になることで、改ざんはほぼ不可能になるのです。
III.ブロックチェーン1.0 ―― 仮想通貨の発明
ブロックチェーンの最初の事例は、仮想通貨であると言えるでしょう。イノベーションを0から10に例えるなら、仮想通貨という技術が確立できたことは、いわゆる0から1への革命と言っても過言ではありません。
従来、インターネット上の決済は、あらゆる金融機関のシステムを介さない限り不可能でした。その不可能なことを、仮想通貨ビットコインは世界で初めて成し遂げました。決済は送る側と受け取る側の2人の当事者だけでできる(P2P決済)という、紙幣などが持つ“仮想通貨はビジネスに使えるものでしょうか おカネ”の特徴をインターネット上で実現したのです。それだけではありません。世界の誰でも仮想通貨を作れるようになりました。これも革命的なことです。
一般的に、通貨は国がおカネの価値を保証し、通貨供給量を経済活動の状況に応じて管理するものです。しかし、ブロックチェーンは、国が価値を保証する代わりにユーザー同士が共同で仮想通貨の価値を保持します。そして、通貨自体に組み込まれているブロックチェーンソフトウェアが自動で供給量を調節してインフレーションを抑えます。この仕組みにより、中央管理を必要としない、まったく新しい通貨の発行とその流通技術が確立したのです。
IV.記録システム
ビットコインと同じくして出てきた事例に「Proof of Existence」というものがあります。これはビットコインの基礎技術であるブロックチェーンに着目して、仮想通貨以外に応用できないのかという発想の第一弾ともいえる事例です。
Proof of Existenceとは記録システムのことで、たとえば身分証明書、卒業証書、資格証明書などの証明事項をブロックチェーンに記録し、検証側がその身元確認、証明書の発行者の確認、証明書の内容に改ざんがないことを確実に、どこでも、瞬時に行えるというシステムです。偽造された卒業証書がインターネットで一万円程で買え、またパイロットライセンスでさえ偽造されるケースが数年に一度の頻度で報道されるなか、Proof of Existenceは検証システムとして有効なソリューションと言えます。
Proof of Existence型の事例としては、証書や保証書、ライセンスなどの検証システム、住宅や土地の所有権の証明、相続証明書、身分証明、車検証明、通関手続きの各書類証明、入国審査の自動化、偽物の発見システムがあります。
V.仮想通貨からスマートコントラクトに進化
ブロックチェーン1.0を基礎に、新世代のプラットフォームも開発されています。その主な機能がスマートコントラクトです。スマートコントラクトとは、世界の誰もが契約書をプログラムとして書くことができ、それをブロックチェーンに載せることで当該者が契約書をコールし、自動的に契約書の事項をモニタリング、遂行するというものです。
たとえば、スマートコントラクトを使えば商品の発注、請求、納入の一環のプロセスを自動化することが期待できます。さらにこのプロセスから、仲介料を取る仲介人または仲介会社を省くことで、買い手と売り手双方にとってコストの軽減が期待されます。
加えて、サプライチェーンファイナンス(SCF)等、サプライチェーンの横断的なコストの削減も期待されています。
VI.ブロックチェーン3.0 ―― 各領域に応用され、特化していく
最先端のブロックチェーン3.0の特徴の一つに、金融領域以外に応用される事例が増えていることがあります。先に触れたブロックチェーンの機能、Proof of Existence、P2P決済、スマートコントラクトなどを使って、多種多様な領域のトップ企業が実証実験に投資しています。
たとえば、音楽が再生された時点でスマートコントラクトを起動、著作権の支払いを仲介者なしにアーティストに直接送信する、予測市場をスマートコントラクトで構成することで仲介者を省略する、車同士で仲介なしでデータ交換と決済をするなどです。さらには、ドローンや空飛ぶタクシーなど、空中交通システムの管理管制にもブロックチェーンが使われる研究事例もあります。こうした事例の背景には、センサーエコノミー等を支える端末の増加によって、集中型では中央サーバーがボトルネックになってしまうのではないかという懸念があります。
そのブロックチェーン3.0で特に注目されている事例として「Traceability(履歴追跡)」「Tokenization(トークン化)」「Self Sovereign Identity(自己証明型身分証)」などが挙げられます。
1.Traceability(履歴追跡)
Traceabilityとは、製品などの生産履歴をブロックチェーンに記録することによって、今までの履歴追跡システムでは難しかった全行程(たとえば原料から消費者まで)の履歴追跡や部品単位での履歴追跡が可能になるというものです。昨今の消費者の食品安全、食品偽装防止への高い関心を考慮すると、今後は全行程、あるいは小単位の履歴追跡はかなり重要になってくるでしょう。
KPMG ASIA PACIFICでは、ブロックチェーンを使って高級ワインの生産履歴追跡を記録する「KPMG ORIGINS」の実証実験(Proof of Concept)を行っています。「KPMG ORIGINS」は、ワイン生産者のニーズに合わせて、消費者が簡単に生産履歴情報を取得したり、購入者の満足度を増す趣向が組み込まれた体験型システムです。たとえば、ワインボトルをスキャンするだけで、瞬時に生産履歴にアクセスできます。履歴には、生産者のブドウの品質保証や、生産過程のサステナビリティ基準に達しているといった情報はもちろんのこと、いつブドウが収穫されたか、熟成期間はどれだけあったか、輸送中の気温は何度であったかなど、さまざまな履歴データにアクセスすることができます(図表2参照)。
図表2 ブロックチェーンを使った高級ワインの生産履歴追跡
2.Tokenization (トークン化)
従来の集権型では、各会社が出資しあって第三者が中央集権型データベースを設置、データを一元化するのが一般的でした。信頼性などの長所はありますが、前述したとおり開発費や管理費、管理責任などの短所もあります。
そこで今注目されているのが「トークン」というコンセプトです。トークンは仮想コインであり、履歴を追跡したいモノ一つひとつに与えられます(英語ではNon Fungible、代替性のないコイン)。たとえば、箱に入った物品を追跡したいのであれば、箱がどこへ行こうと、どの保有者の元であろうと、トークンはその箱をついてまわります。 仮想通貨はビジネスに使えるものでしょうか
このように、保有者が変わっても、履歴データはトークン自体に記録されます。これにより、問題が起こりやすい会社間のデータの受け渡しを省略できるだけでなく、さまざまなユーザーや会社、レギュレーターが一元化された情報としてその履歴にアクセスすることができます。
3.Self Sovereign Identity(自己証明型身分証)
「Self Sovereign Identity」とは、アイデンティティ(ID)の自己管理のことです。IDをブロックチェーンの分散型で管理すると、ID管理をする第三者が不要となり、IDの漏洩や盗難のリスクを低減すると期待されています。また、個人についての情報、たとえば医療記録など、どの情報を公開するかしないかは(法律内で)その個人が決めることができることも、Self Sovereign IDの長所の一つです。 仮想通貨はビジネスに使えるものでしょうか
今日のネット環境では、ユーザーは一般的に10~20のIDとパスワードを使い分けています。そこで、このSelf Soverign ID技術で、1つのIDですべての認証を可能とするソリューション開発の研究が行われているのです。
Self Sovereign IDは、入国審査の自動化、GDPRなどの個人情報のコントロール、KYC/AML/CFT(顧客確認、資金洗浄・テロ資金供与対策)、機械間の認証、デジタル投票システム、分散型PKIなど多岐に渡る事例があり、その応用性は非常に幅広いと考えられています。
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「ビットコイン」って、いったい?
最近、新聞やTV、ネットのニュースで「仮想通貨」や「ビットコイン(Bitcoin)」という言葉を目にしたことはありませんか? 2013年12月4日にNHKニュースウォッチ9で放送された「広がる仮想通貨 ビットコイン」では、「価格が急騰。1年で、100倍の10万円以上に」、「拡大が続くビットコイン」、「違法な闇取引に利用」など、その魅力と恐怖が入り混じったまま語られていたのがとても印象的でした。その放送直後に、中国の金融機関がビットコインの使用を禁止したことを受け 『「ビットコイン」って、いったい』の目次
ビットコインって、なに?
ビットコインは「インターネット上に構築された、参加者の総意で運用されている決裁システムの一つ」とされています。この説明で理解できる人はまれでしょうから、まずはインターネット上の通貨と考えることから始めましょう。
ところで、あるモノや仕組みをネットワーク上に作りこむためには、そのモノのもつ重要な性質を情報メディアの言葉で表現する必要があります。例えば、電子メールのアドレス「◯◯@cuc.ac.jp」は、右から「日本(jp) 教育機関(ac) 千葉商科大学(cuc) の ◯◯」と読めば、普通の郵便の「日本 千葉県 市川市国府台 1-3-1 ◯◯」という「住所」に対応していると、なんとなく、理解できます。
さて、AくんとBさんが同じ銀行に口座を持っていて、AくんがBさんに口座を使って3000円を送金するものとします。この時、銀行はAくんの口座(通帳)の残高を3000円と手数料を差し引いた金額に、Bさんの通帳の残高を3000円増やした値にそれぞれ書き直すでしょう。このように、口座決裁ではAくんとBさんの間で現金の移動はなく、単に通帳のデータを書き直すこと自体が「送金」に相当します。現金書留をつくるために、ネットワークの通信線に「現金」を無理やり詰め込むことはできませんが、データの送受信とデータベースの書き換えはできます。インターネットを利用した高速低コストの口座決済システム、ざっくり言うと世界規模の預金通帳とその書き換えシステムが仮想通貨の正体なのです。
ビットコインって、だれがなんのために作ったの?
wikipedia の記事によると、ビットコインは中本哲史 (Satoshi Nakamoto)を名乗る人物によって投稿された論文に基づき、2009年に運用が開始された」とあります。このビットコインの創始者とされる中本哲史氏は本名、実在かどうかを含めて不明となっています。ここで、ビットコインは中本氏一人ではなく、彼の思想とアイデアに共鳴した、たくさんの技術者によって開発、運用が行われていることを強調したいと思います。
などが考えられます。ちなみに、中本哲史氏は推定100万BTC (2013年12月の時点でおよそ1000億円) 所持しているといわれています。これは彼が得たシニョリッジと言ってよいでしょう。
ビットコインって、だれが使うの?
も考えられます。ビットコインの価格が急騰した理由として、2013年3月 のキプロス金融危機をあげることができます。ユーロ圏がキプロスへ金融支援する条件として全預金に対する課税を決めたことから、預金者が銀行から預金を引き上げ、ビットコインに流入させたといわれています。ビットコインは、中央機関を持たない P2Pネットワーク上で維持されています。これは、ある国家が特定のコンピュータを差し押さえても、その他のコンピュータが連携してネットワークを維持するため、預金の送金、引き出しを止めることができないことを利用しています。
逆に、この性質と後述する匿名性を悪用する例として、
ビットコインって、もうかるの?
2013年にビットコインの値段が100倍にもなり、投機目的でビットコインを所持し始めた人も多いでしょう。ビットコインを持ち続けることで値上がりを期待するのはその人の自由ですが、ビットコインの価格は乱高下する可能性があります。2013年に価格が急騰しその後暴落したことをみてもわかるとおり、ビットコインに向かう貨幣量に対するビットコインの供給量は未だ十分でないと判断せざるをえません。ビットコインの供給量 は時間に比例して緩やかに増加するように管理されていること、2013年12月からそれほど時間が経ってないことから、前回価格が乱高下した時とほとんど状況は変わっていません。また、今後ビットコインよりも魅力的な通貨が登場することや、致命的な欠陥が発見され他の通貨に流出してしまうことも考えられます。
ビットコインで利益を得る方法として採掘もあります。これは、それぞれの支払いが正当であるということを承認するという、ビットコインネットワークを維持するための仕事に対する正当な報酬です。しかし、最近、採掘に必要な計算量(難しさ)は急激に増加しており、一般の採掘者が参加しても採掘できる可能性は殆ど無いと言われています。
ビットコインって、危ないんじゃないの?
- コインの値段が急変するんじゃないの?
という点からみた場合には、既にお話したとおり、十分に危険です。次に、
- ハッカーにねらわれるんじゃないの?
という点はどうでしょうか。ビットコインが通貨としての機能を持っている以上、あなたのPCや電子財布(ウォレット)がハッキングの対象となる危険性は十分にあります。また、秘密鍵やパスワードが盗まれるなどして他人に送金されてしまったコインを取り戻す方法は、一般に、ありません。さらに、 各国におけるビットコインの法的な扱いが各国で統一されていない以上、それを国際的に保護する仕組みもないと思ったほうがよいでしょう。これも、仮想通貨が一般市民に受け入れられるためにクリアしなければならない課題の一つです。
しかし、通常の送金がすべて危ないわけではありません。ビットコインは
- コインの送受信の記録から個人が割り出されない(匿名性)
- 正常に行われた送金が第三者に横取りされない
- 同じコインが二重に使用されない
- 「ハッシュ」とはデータをツブすことであり、
- ツブれたデータからツブす前のデータを予測することはできない
- 原則として、秘密鍵は秘密に、公開鍵は公開して使う
- 公開鍵から対応する秘密鍵を推測することはできない
- 秘密鍵で暗号化したデータは対応する公開鍵でのみ解読できる
ビットコインの送金方法として、相手の公開鍵(からつくったアドレス)に対し て送金する方法(P2PKH: Pay-To-Public-Key-Hash)やあるスクリプトに対して送金する方法(P2SH) などの方法がありますが、ここでは P2PKH について説明します。P2PKH の送金先(アドレス)は送金を受ける人の公開鍵をツブしたもの(ハッシュ化したもの)を使用します。ツブれた公開鍵から対応する秘密鍵を推測することは非常に困難なので、単に送信アドレスを眺めているだけでは、そのアドレスを生成するときに用いた共有鍵を推測すること、すなわち送受信のアドレスから個人を割り出すことは非常に困難になります。
次に、コインを送信する人は、コインの最後に受信者の情報をつかった「なぞなぞ」を「練り込み」ます。そして、このなぞなぞが解ける人を正当な受信者と認めるわけです。P2PKHのなぞなぞは、「あなたが正しい受信者なら、もってる(はずの)公開鍵をツブして受信者のアドレスをつくれるでしょ?」という部分と「あなたの秘密鍵をつかえば、その公開鍵で解読できる暗号文がつくれるでしょ?」からなります。両方とも、送信アドレスに対応する秘密鍵を持っているなら簡単に解けるなぞなぞですが、秘密鍵を知らない人には歯が立ちません。この仕組みを使って、正常な送金が第三者に横取りされないことを実現しています。最後に、二重支払いを許さないために「みんな」で監視します。まず、二重に支払った可能性のあるコインは正常なネットワークから拒絶されてしまいます。 仮想通貨はビジネスに使えるものでしょうか
正常な支払いはブロックと呼ばれる箱に集められ、箱ごとに承認印が押されます。承認印は、その前のブロックと現在のブロックの中の取引データにノンスというよくわからないデータを加えてハッシュした「値」です。ハッシュ値は特別なパターンになっている必要があるのですが、ツブれたデータから元のデータを推測できない、もっというと、ある特定のパターンのハッシュ値を作るためのノンスを推測することは出来ないため、「力づく」でノンスを探します。このノンスを大量に変化させ、あるパターンのハッシュ値を作る作業を「採掘」といいます。一番早く採掘に成功した人には、その報酬として 25 BTC(2014年11月の時点で約10万円)が渡されます。正しく承認されたブロックは、今までのブロックの後ろに継ぎ足され、ブロックチェーンの一部となります。もし、ブロックチェーンが枝分かれしてしまった場合には、最長のチェーンに含まれるブロックが正当であるとされます。もし、ネットワーク上に裏切り者がいて、ブロックチェーンを勝手につくり直そうとした(分岐させようとした)場合、同時に伸びているチェーンよりも速く「にせもの」チェーンを伸ばす必要があります。その間、採掘レースで世界中の採掘者を抑えてトップを独走せねばならず、そんなことをするくらいなら「正しい採掘者として参加し、正当な報酬をもらい続けたほうがはるかにマシ」、つまり、監視の裏切り行為がワリに合わない仕組みになっています。
ビットコインって、なにがすごいの?
ビットコインって、どうやって勉強するの?
「暗号が通貨になる ー 「ビットコイン」のからくり」吉本 佳生、西田 宗千佳
(講談社、ISBN-10: 4062578662、ISBN-13: 978-4062578660、2014/5/21)「これでわかったビットコイン ー 生きのこる通貨の条件」斉藤 賢爾
(太郎次郎社エディタス、ISBN-10: 4811807723、ISBN-13: 978-4811807720、2014/4/25)「仮想通貨革命 ー ビットコインは始まりにすぎない」野口 悠紀雄
(ダイヤモンド社、ISBN-10: 4478028443、ISBN-13: 978-4478028445、2014/6/6)最後に宣伝です。 ビットコインは、新しい国際貨幣であり、ソフトウェアでもあり、ネットワーク上で運用されるサービスでもあります。このため、ビットコインを正しく理解するためには、それぞれの基礎となっている分野を横断的に、かつ、専門的に理解する必要があります。 千葉商科大学政策情報学部は、このような複雑な問題に対応する人材を育成することを目的とした学部です。機会がありましたら、一緒に勉強しましょう。
【レポート】横塚裕志が聞きたいシリーズ 仮想通貨はビジネスに使えるものでしょうか 第6回 「ブロックチェーンのビジネスバリューが理解できる!」
第6回目となる「横塚裕志が聞きたいシリーズ」、過去最高となる60名以上の方にご参加いただき、会場は熱気にあふれかえりました。ブロックチェーンに対する関心の高さがうかがえます。 日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバルテクノロジーサービス事業本部 山下克司 様 ブロックチェーンと聞くと「ビットコインのことでしょ?」「仮想通貨や金融の技術だよね?」と、自社のビジネスにはあまり関係がないという声を聞くことが多くあります。また、ビットコインの知識があるからこそ「ブロックチェーンの分散モデルをクラウドやメインフレームに集約しても意味がないのではないか?」という誤った印象を持たれる場合があると山下様は語ります。まずはその誤解を解くところからセッションが始まります。 ブロックチェーンの基礎技術は、実は昔からある古い技術ばかりです。様々な技術を組み合わせで、新たな仕組みをつくりあげているのですが、話題性のあるビットコインのニュースばかりが取り上げられるため、突然現れた革新技術のように思われていることが、正しい理解を妨げる原因になっています。
分散管理と中央集権
DBIC代表 横塚裕志 ブロックチェーンは情報の分散管理を実現するための技術です。言い換えればデータ保存方法のひとつで、「誰が誰にどういった情報を渡した」という取引情報(トランザクション情報)を数珠つなぎにし、1本の取引台帳(=チェーン)をつくって関係者全員が持つ、という技術です。中央集権型にだれかひとりが台帳を持つのではなく、参加者全員が台帳を持って、自律的に管理することが特徴です。 ブロックチェーンを利用するメリットとしては以下の点が挙げられます:
- 複数の関係者をまたいだ情報の共有に適している
- 全員が同じデータを持っているためデータの改ざんが困難
- システム障害発生時にすぐに復旧できる
上記の理由からブロックチェーンを活用することにより関係者全員がフラットに情報を共有し、常にそのステート(状態)の遷移を把握することができます。この特性を「通貨」という形に実装したシステムのひとつがビットコインです。 あくまでブロックチェーンは情報を分散管理する基礎技術であり、それを仮想通貨として実装したシステムがビットコインです。ただ、ブロックチェーン技術はビットコインと同時に基礎技術として登場してきた経緯があるため、両者が混同されていることが誤解を招くひとつの原因になっています。 現在では「通貨」以外の用途に特化したブロックチェーンプロジェクトが注目されており、不動産登記や、企業内のサプライチェーン管理など、様々な分野での応用研究が進められています。
伝票文化からデジタルネイティブへの転換
ブロックチェーンがビジネスの現場にもたらす変化のひとつとして、「伝票文化からの脱却」が挙げられます。 ビットコインが実現している例のひとつとして銀行の海外送金が考えられます。一般的な海外送金では、最初に依頼人が振込依頼書を起票し、その情報が、振込元銀行→中継銀行→振込先銀行と伝達され、最終的に受取人の口座残高に反映されます。各銀行に台帳があるため、少なくとも3回の台帳更新、2営業日以上の時間、数千円の手数料が必要になります。 ビットコインでは依頼人側と受取人側が同じ台帳を持つことになります。例えば依頼人が「10ビットコインの仮想通貨を受取人に送信」という取引情報をブロックチェーンに書き込むことにより、その情報がネットワーク全体の台帳に書き込まれ、受取人が10ビットコインの仮想通貨を受け取ります。取引情報の書き込みにかかる時間と若干の手数料が必要ですが、従来の海外送金より早く安く送金することができます。そして紙の伝票を扱う銀行も必要なくなり、中間プロセスをすべて省くことができます。 ブロックチェーンを前提としてビジネスを考えることが、現在の伝票ベースの業務をシステム化したビジネスプロセスを根本から覆し、最初からデジタルなビジネスを生み出す可能性を秘めています。
ブロックチェーンが加速するビジネス・エコシステム
そして注目すべき特性のもうひとつが、「関係者間でのリアルタイム情報共有」です。 例えば現在は生命保険に加入する場合、医師による医療審査などの様々な手続きをした上で、保険会社の契約レコードに登録してもらうことが必要になります。これをブロックチェーンで実装した場合、保険会社が契約レコードに登録するのではなく、関係者全員が共有する台帳に登録されます。これまで保険会社を通じて行なっていた処理はブロックチェーンを経由してリアルタイムにその情報が医師に伝わり、医師が加入者に診察案内を出し、医師が診断結果をチェーンに書き込むといったデジタルなプロセスが実現できるでしょう。もしかすると、保険会社の営業も業務管理も必要なくなり、生命保険会社のビジネスはほんの数人の保険リスク管理の要員だけでよくなるかもしれません。 このようなデジタルネイティブのビジネスプロセスになった場合、その企業にとっての真のコアコンピタンスとは何かを改めて考える必要に迫られます。生命保険会社にとっては、診断結果の妥当性や保険料が適正であるかを検証できることがコアコンピタンスとなるでしょう。 このフラットな情報共有は、複数の企業が共有するビジネス・エコシステムに適しています。情報伝達やチェックなどの無駄な作業を取り除くことにより、それぞれの参加者が自らのビジネスに集中することができ、共創価値を最大化することができます。 そして従来のような国家や企業に縛られない「非中央集権型自律組織」(DAO: De-centralized Autonomous Organization)ができるのではないか、といった未来を予測する議論が活発になっています。
テレパシーで伝えるのがブロックチェーン?
では、記事冒頭の誤解の例として挙げた「ブロックチェーンの分散モデルをクラウドやメインフレームに集約しても意味がないのではないか?」といった理解はどこがまちがっているのでしょうか? ブロックチェーンは「データが分散していること」ではなく、「台帳が共有されていること」が重要です。参加者全員が平等に情報を共有し、常にその状態を把握することができる。そこにブロックチェーンの真髄があります。海外送金や生命保険の例でも、台帳を共有することにより新たなビジネスバリューが生まれています。 山下様はブロックチェーンによる受発注や契約というようなビジネスのステート(状態)の共有を「伝票という紙の媒体で伝え合うのではなく、テレパシーのように瞬時に伝えるようなもの」とおっしゃります。「今のビジネスにどう影響するか」ではなく、新たに生まれたデジタルのアナロジーとしてどう受け止められるかを考える必要があります。
ビットコインの基礎知識と限界
ここまでのセッションでブロックチェーンの基本を理解した上で、仮想通貨「ビットコイン」を構成する技術の説明が始まりました。 ビットコインは公開鍵暗号によるデジタル署名、ハッシュキャッシュ、プルーフオブワーク、ピアツーピアネットワークといった様々な基礎技術の組み合わせで成り立っています。 取引情報の追加(マイニング)をマイナーと呼ばれる参加者に任せ、分散自律型のシステムを維持する仕組みが確立されています。一方で、取引確定までに時間がかかる、時間当たりの処理能力が低い、仕組みの維持にコストがかかる(電力消費量が多い)、といった問題をはらんでいます。 このような問題点を解決するために、ビットコイン自体の改善(フォーク)や、ビットコインに代わる仮想通貨(オルトコイン)の発行が進められています。
注目される「スマートコントラクト」
ブロックチェーンを通貨以外に活用する方法として注目されている技術がスマートコントラクトです。スマートコントラクトは、ブロックチェーンにプログラムコード(実際はリナックスコンテナ技術)を格納する技術のことで、取引発生と同時に様々なアクションを起こすことができます。 この技術を応用すれば、消費者が決済した瞬間に様々な契約処理を完結させることが可能になり、イレギュラーケース以外の事務作業をすべて自動化できるのではないか、という観点で注目されています。 このような仮想通貨以外へのブロックチェーンの活用は「ブロックチェーン3.0」と呼ばれており、ビットコインに次ぐ時価総額をもつ「Ethereum」が代表的なプロジェクトです。 またIBMはコンソーシアム型スマートコントラクトブロックチェーンの代表格であるHyperledgerコンソーシアムに参画し、ブロックチェーンをビジネスの様々な場面で使う実証実験に取り組んでいます。Hyperledgerは分散トランザクションの合意メカニズムを活用することでマイニングを不要としながらも、非中央集権的な会員制ネットワークを形成し、決済遅延やセキュリティ保護などの問題を解消したビジネスに使いやすいブロックチェーンを提供しています。
ブロックチェーンのROIを計ることはできない
ブロックチェーンを正しく理解し、ビジネスに活用する
参加者による質問が飛び交ったのも特徴的なセッションでした。「ブロックチェーンの参加者はどのように決めるのか?」「取引(トランザクション)の競合は発生しないのか?」「ブロックチェーンが長くなると処理負荷が高くなるのではないか?」「最初のチェーンはどのように登録するのか?」「インダストリー4.0とはどう関係しているのか?」「どうすればブロックチェーンベースのビジネスをデザインできる人間を育てることができるのか?」終了後も有志メンバーが山下様の元に集まり、積極的なディスカッションが続きました。 ブロックチェーンはまだ未成熟な技術ですが、その動向とビジネスに与える影響を無視することはできません。今回のセッションはブロックチェーンに対する参加者の疑問を解き明かすきっかけになったのではないでしょうか。
楠正憲(ブロックチェーン専門家)
楠正憲(くすのき・まさのり) 神奈川大学在学中から『日経デジタルマネーシステム』編集記者として記事を執筆。インターネット総合研究所、マイクロソフト、ヤフーを経て2017年10月よりフィンテック分野でUXデザインを手がける三菱UFJ系の新会社、Japan Digital Design株式会社 CTO(最高技術責任者)に就任。ISO/TC307国内委員会 委員長、内閣官房情報化統括責任者補佐官。Linux IPv6 RPMプロジェクトFounder。その他にも多数の役職を兼務。
クラウドで済むような事例も多い
───ブロックチェーンはいまだ黎明期にあり、仮想通貨以外の分野に一般化するのは確かにこれからかもしれませんが、すでにビジネスの現場では使われだしています。こうした商用利用の実例をどう見ますか。注目されている事例もあれば教えてください。
───ブロックチェーンを使った方が、クラウドよりも優れたビジネスになるという事例は生まれるものでしょうか。
ブロックチェーン的なやり方になったら、アクセスコントロールが難しいからそういう訳にはいきません。多様なプレイヤーが繋ぎにいったとき、どうセキュリティを守るかに変わっていく。そうなると、必要とされるセキュリティの技術自体が大きく変わるかもしれません。こうした背景によって、新しい技術ないしアーキテクチャーが生まれてくる可能性もあると思うのです。
───オープンなチェーンではなく、クローズドな「プライベートチェーン」でセキュリティを保つという考え方もあるようですが。
技術的でなく、政治的な問題も
───セキュリティとともに今後の課題に挙がるのが、ブロックチェーン上の処理スピードだと思います。ビットコインの場合は、取引が確定するまで基本は10分間、長い場合は1時間も待たされることがあります。これは今後、改善されていくものでしょうか。
───ビットコインは「お金」だから話がこじれやすいのでしょうか。もし、違う分野だったらうまくいきやすいとか。
リップル社が開発する分散型台帳技術を利用した即時グロス決済システム、外国為替・送金ネットワーク。同ネットワーク上にのみ存在する通貨が「XRP」。2004年にカナダのウェブ開発者である Ryan Fugger により開始された。 https://ripple.com/
社会課題を解決する力がある技術
書いたコードを共有する時代へ
───先ほど、ブロックチェーンを使う必要が本当にあるビジネスやサービスが出てきていない、との指摘がありました。実際に必然性があるビジネスやインフラはどういうものでしょう。ブロックチェーンが一般的になった近未来の青写真を伺いたいです。
───そうなると、社会やビジネスはどのように革新されるのでしょうか。例えばスピードがすごく速くなるとか?
学問分野との連携は不可欠
───今のブロックチェーンの世界に起きていることを、インターネットが一般に普及した1990年代に重ねる捉え方もあります。
ブロックチェーンもようやくここ数年で論文などが出てくるようになりましたが、コンピューターサイエンスの人たちが十分関与する前に、あまりに大きな価値を扱うようになってしまった。ビットコインというアマチュアリズムの中から生まれたものが、いきなり何十億、何百億という価値をハンドリングするようになってしまったので、これから成熟するまでに大変なプロセスがあるかもしれません。
───学術分野として近いのは、コンピューターサイエンスの中でどの分野になるのでしょうか。
運営主体がいないからできること
───最後にブロックチェーンが社会課題を解決する可能性を聞かせてください。先日、マイクロソフトとアクセンチュアが共同でブロックチェーン技術を使ったプロジェクト「ID 2020」を発表しました。世界中の難民に公的IDを発行して身分証明できるようにし、金融や行政サービスを受けられる仕組みをつくる計画だそうです。こうした事例に中央集権的なシステムではないブロックチェーンが向くのでしょうか。
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